ジャパニーズ・ポスト・ブラックメタルの衝撃〜メロディの無い叙情〜「明日の叙景」を聞く
はじめに
本記事は推しコンプレゼン2023 Advent Calendar 2023 の参加記事です。
注意事項
当記事には解説の都合上、政治宗教上のバックグラウンドに触れざるを得ない箇所があります。
ただし、これはいかなる政治思想・宗教にも肩入れ、批判などの意図をもって筆者が記述しているものではありません。
また、当記事は音楽に詳しくない方への解説面も含めており、わかりやすさを重視したりざっくりとした説明にとどめていることがあります。ご容赦ください。
ポストブラックメタルとはなんぞや
なんだか物々しいとかやばそうとかなんのこっちゃとか思われる方は多いのではなかろうか。音楽に詳しくない方どころかそれなりに詳しい方でも一体何だとなるのは仕方ないものと思われる。
分解すると
ポスト
ブラック
メタル
となる。
メタルというとおりこれはヘヴィメタルのサブジャンルである。その中でもブラックメタルというジャンルの更に派生で「ポスト」というワードがついている。
まずはブラックメタルについて
ざっくり言えばトレモロを多用したギターリフ、激しいビート、ローファイなサウンド、メロディを伴わないボーカルがサウンドの特徴として挙げられる。
また特に世代が少し進んでからだが、反キリスト教、サタニズムという思想面が大変重要なポイントになっている。他の思想としては反世界宗教、無神論、反道徳主義といったものが挙げられる。
実際にこれらの思想が過激化し、教会への放火や殺人事件といった犯罪行為が多々発生した自衛も存在した。
これはシーンの中心であったMayhemの楽曲であるが、上記特徴は満たしているといえよう。
ではこれが「ポスト」になるとどうなるのか
思想面の要素がかなり抜け落ちる傾向があるようである。というのもあまりポストブラックメタルのバンドは事例がブラックメタルに比べ多いわけでもなく、また「ポスト」の由来であるポストロックもそれなりに雑多なカテゴリであるため。
正直なところジャンル分けを放棄しているのではないかという気がしなくもないが…
傾向としてはシューゲイザーなどのアンビエント的な音楽のサウンドが取り入れられる事が多く、ジャンルのクロスオーバーであると認識して頂いて構わない。
日本の代表的なポストロックバンドであるte'。部屋の残響をたっぷりと含んだようなサウンドであることはおわかりいただけるかと思う。
シューゲイザーというジャンルを代表するバンドであるMy Bloody Valentine。轟音と空間を埋め尽くすようなエフェクトが主な特徴である。
本題、「明日の叙景」とは
タイトルにも書いた通り彼らのサウンドは紛れもなくポストブラックメタルであり、ブラックゲイズ(シューゲイザー+ブラックメタル)に収束するであろう。
まずは聞いていただきたい。
メロディもない絶叫、フォーマットとしてはトレモロを多様する通りブラックメタル的であり、しかしダンサブルなビートも感じる。その上でシューゲイザー的な空間を埋める要素も強い。
だが、私が衝撃を受けたのはそこではない。
メロディもないのに、大変豊かな叙情と感情がそこにある。
声からも、楽器隊からも、たいへんな叙情性を感じる。それに尽きるのだ。
彼らの音楽性にはJ-popの下地がある、とは言われるようだが、しかしてそれだけではない、と私は感じる。
そしてこれは「リリックビデオ」である。よく歌詞を読みながら聴くことができる。
このようなフォーマットでありながら、いや、むしろ、このようなメロディを捨てたようなフォーマットであるからこそ、歌詞にすべてを詰め込むことができる、といえるのではなかろうか。
久々に「きちんと歌詞と対峙して聞く音楽」と出会ったと私は感じた。
とにかく、よく聞いて、詩と対峙して聞いてみてほしい。
たしかにエクストリーム・ミュージックであり、とっつきにくいかもしれない。
ただ、その根底には、必ずこの音楽は決して「ただ激しいだけではなく、繊細さやさまざまな感情を兼ね備えた、本質的には良質な音楽であり、ポジティヴな叫び」であることがうかがえるであろう、と私は信じている。